はじめてに出逢う旅
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面じべたもみえないで。
つもった雪/金子みすず
初めて、空から水の粒が落ちてきたとき。
初めて、昨日まで閉じていた花が開いた朝を迎えたとき。
初めて、書いたことのない文字を書くことができたとき。
毎日毎日同じような日を送ってきたようなつもりでも、
小さな喜びのさざ波が心を打つ瞬間が幾度となくありました。
初めて弟ができると知ったとき。
階段の一番下から駆け上がって、「赤ちゃんの名前は?赤ちゃんの名前は?」とソワソワする気持ちを我慢できず飛び跳ねていたのを今でも覚えています。
あの時は弟が生まれる前の世界が二度と来ないことを理解していなかったけれど、不思議で愛おしい瞬間でした。
初めてどんぐりや松ぼっくりを公園で拾ったとき。
どんぐりが小さくて松ぼっくりが大きいことに疑問を持ちながら、松ぼっくりの方が大人なんだなと解釈していました。
どんぐりが大人になったら松ぼっくりになるんだろう、と。
でも拾って持って帰ったどんぐりたちが成長することはありませんでした。残念。
初めて季節の変わり目を肌で感じたとき。
幼稚園の送迎バスから降りて香る秋の匂い。
小さい頃から空想癖だったので、勝手に風と喋った気になっていました。(心の中で)
「今度はわたしの番ね」と話しかけていたことだけ覚えています。
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大人になった今でも、食べたことのないものに感激し口が慣れていないので繰り返し食べてみたり、聞いたことのない言葉の響きにテンションが上がったり、小さい頃はむしろ何とも思わなかったことに驚嘆したり。
“人生は一度きり”なんて聞き飽きたフレーズだけど、これが人生一回目で良かったな。