明日はきっといい日になる

 

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京都の河原町から宿へと戻るときにふと、定期券を見つめた。

行き来する最寄駅はどちらも東京の真ん中で、ぞっとした。

 

そして、新幹線の尻尾へ吸い込まれるように景色が流れていく様子を見ながら

「来週地元へ帰ろう」と思った。

 

上京してから帰省したことは何度もあるけれど、東京の暮らしは楽しかったし、弱気になっても実家へ戻りたいと思ったことは一度たりともない。

だから帰省するときはいつも日帰りか、長くても2泊。

 もはや地元は「帰る」ところではなく、「行く」場所だった。

 

それなのに、どういうわけか急に東京へ戻る気力が見つからない。

 

 

京都へくるのは3回目だったけれど、今までこんなにもほっとした気持ちになったことはなかった。

都会なのに、息が詰まる感覚がしない。

電車や人がなだれ込むようなおぞましい勢いも感じられない。

なんて素敵なところだろうといううっとりする感覚と、ずっとここにいることができない焦りが入り混じる。

 

 

 

ある病状が出てから二週間、病院を転々とするも回復しないことで不安が募る一方だった。

 

寝ても起きても痛みが襲うことに段々気持ちだけでは乗り越えられない状況であることに、もうそろそろ目をつむれそうもない。

 

 

東京では正確な時間に、2分や3分の間隔で電車がやってくる。

二人分ほどの幅の扉の前に、ぎゅうぎゅうと何人ものひとが開くのを待ち構える。

 

車体が通り過ぎていくたびに、わたしだけ社会から取り残されている不安が弱い心にあちこち歩き回ってはべたべたと足跡を残した。

 

 

 

鴨川で教えてもらったおいしいパン屋さんの歯ごたえのあるバゲットを噛みしめるほど、自分の今までの生活が遠くに感じられてくる。

 

 

ーーこのままじゃ、もう東京へ戻れないかもしれない。

 

 

 

やりたいことの100分の1もできず、結局ホテルで横になることで一日二日と過ぎてしまっていた。

 

 

会いたかったひとと他愛のない話や美味しいごはんを一緒に食べても、不調に打ち克てる強さが今の自分にはないことが悲しかった。

 

 

決めなきゃいけないこと、いっぱいあるのに。

こんなにのんびりしてる時間なんて、ないのに。

 

 

人生は短い。

それはそれは短くて、無駄にする時間なんて用意されていないよということは先に行ってしまった大切な人たちが教えてくれている。

 

 

 

でも、やっぱり帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

地元に少し戻ろうと思って、と友人に連絡をしたら「いつも居心地が悪いって言ってるよね」と笑われた。

 

でも今向かっているのは、退屈で何もない景色が広がる地元だ。

 

家族との間に残る少しヒリヒリした感覚も、何もないのになんでもある田舎の地元も、たしかにすきじゃない。

 

すきじゃないけど、帰る場所があるのはしあわせなことだと思う。