夢の配達人
小織さんは、「誰かの夢を応援する」ことのプロです。
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小学生のころから映画監督になる夢を描き、大学で映画監督コースに進学するも挫折。
卒業後は脚本家を目指しながら派遣の事務員に。
31歳を迎えようとしていたある日、同棲していた彼にフラれてしまいます。
失恋を癒したのは、サックス奏者の夢を追いかける女の子のコンサートでした。
『私は夢を諦めたからこそ、夢に向かって頑張っているあの子みたいな子を、自分のできる形で応援するのはどうだろう?世界中のみんなが夢を実現できたらいいのに。』
誰かの夢を応援する気持ちを温めながら過ごしていく中で、「夢のない人にはどうしたらいいか」を考えるようになります。
『そういう人には夢のきっかけを与えられたらいいのかもしれない。たとえば途上国の子供とか……』
そして温めてきた想いは意外な形で孵化します。
「カンボジアに映画館をつくりたい」。
カンボジアに行ったことはありません。
なぜカンボジアか分からないけれど、このふと舞い降りてきた気持ちは偶然ではなかった。
奇しくも10年前に「途上国に映画館をつくる」と言っていたのです。
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カンボジアで映画館をつくるという夢を抱いていてからの軌跡が本作で描かれていますが、きっと製本からこぼれ落ちていった数えきれない衝突や苦労や葛藤が現実にはあったと思います。
小織さんは自身のことを『「代表」ではあるけれども「リーダー」ではないのではないかと思う』と言っています。
キャティックにはそれぞれのフェーズにふさわしいリーダーがいた、と。
この言葉を受けて、高校生の時出逢った言葉を思い出しました。
「なんでも全部自分でやろうとすることは、誰かの役割を奪うことになるんだよ」
リーダーと聞くと、ものすごくしっかりしていて、ぐいぐい皆を引っ張る存在をイメージします。
でも、活動を共にする仲間の居場所を作ることができるのもリーダーとして必要な気質だと思うのです。
周りが応援してしまいたくなってしまう、そして集まる仲間と一回り歳が離れていようが敬意を持ちながら一緒に活動している。
わたしは小織さんほどの、世の中に希望をもたらしてくれるリーダーに出逢ったことがありません。
応援する人も、小織さんたちが応援するカンボジアをはじめとする世界中の子どもたちも、誰もが夢を持つことの素晴らしさに触れるきっかけを与えてもらえるからです。
素晴らしいリーダーだからこそ、活動に引き付けられた人たちもまた魅力に溢れています。
スピーチの神様ことゆーやさんは、「メロンパンフェス」というアイディアの生みの親でもあります。
「カンボジアで映画配達人を生み出す」と宣言し大学を1年休学したフライパンこと山下くんは、小織さんの想いを超えて行動を起こし有言実行しました。
大好きすぎて、軽々しくあらすじや感想なんて書けない、と読んでからだいぶ時間がかかってしまいましたが、書いてくれた小織さんや活躍するメンバーの方には言葉では足りないほど感謝の気持ちでいっぱいです。
メロンパンフェスの3日前、“うまくいかないかもしれない、もう自分たちの手に負えないことは目に見えていて、それでもやるしかない”と、絶望感から逃れるように手を伸ばしたのがこの本だったんです。
小織さんたちの勇気に、何度も救われました。
読み終わったときにはきっと一本の映画を見終わったときのような気持ちになるはずです。