20180130_9°C
書店員さんが、赤子を抱くように丁寧にブックカバーをかける。
自分以上に自分の大切なものを大事に扱ってもらえることは、こんなに涙が出そうになるほど嬉しいことだったんだ、とその瞬間を目にして初めて知った。
わたしは、こんな風に仕事をできていたんだろうか。
思い出せない。
働いてたのなんてずっと前のことみたいな気がしてきて、戻るなんて想像もできない。
会社に行けていた時よりもずっと体が重くて、起きるときの耐え難い頭痛と気分の悪さで朝を迎えるのが嫌いになる。
朝なんてもう10日以上きていない。
眠れなくて試しに開き直りしぶとく明け方まで起きてみても、きっかり6時から12時の間は意識が飛んでしまう。
体調さえ良くなれば行けるようになる、と休職する前のわたしは繰り返し言った。
仕事の量を減らしてほしいんじゃないんです、ただ気持ちはあっても体調がついてきてくれないんです。
気持ちはあっても、と繰り返した。
嘘だったかもしれない。
帰り道、大きいため息をひとつついた。
嘘だったかもしれない。
水泳と陸上の世界があってね、たまたま自分の得意じゃない競技の世界に行ってしまったらそれは辛いかもしれないけれど、そういうことだってあるのよ、わざわざ苦手なことを頑張らなくてもいいのよ、と社内カウンセラーの人に言われた。その通りだなと思った。
泳げないのに水泳を選んでしまっただけかもしれない。
だけど、泳げないことは最初から分かっていた。
わたしは泳ぎたくてここに足を踏み入れたのに。
ちょっと泳げるようになっても、泳ぎが楽しくないのは、幸せな気持ちになれなかったのはどうしてだろう。