20170321_9°C
毎日乗ってるのに、気づかなかった。
線路沿いの菜の花、窓から見える隣の家の梅の花。
「人は見たいものしか見ない」という言葉が最近妙に引っかかって、じゃあ身近な春の訪れにも気づかない自分は何を見てたんだろう、とふと我に返った。
毎日走ることができても、一生懸命生きるなんて馬鹿みたい、と裏の自分が囁く。
来る日も来る日も、馬鹿みたい、何やってんだろう、とこぼれそうな涙をごまかすように上を向いて帰る。
栄養ドリンクの瓶が溢れかえるキッチンのポリ袋。空も人も目覚め切っていない暗い早朝。
毎回駅員さんに起こされる終点、ハッピーエンドの映画。内臓が潰れそうな通勤ラッシュ、だめな自分を慰めてくれる親しい人の励まし。
全部が今の自分には受け止められなくなっている。
病院の先生はミュージカルに出てきそうな威勢のいい声で、待合室の目の前の扉はバタンバタンと開いたり閉じたりした。
看護師さんも診察時間終了間際とも思えない朗らかさで、「ストレスを抱えてない現代人なんていないって言うもんねえ」と世間話をしながら注射を次々テキパキと刺す。
会計で治療費を告げられる。アルバイトで働く給与の約一日分が、一時間の診察で消えた。
お金を貯めるために無理をして、無理が続かず体調を崩して病院へ行って。そのために会社も早退して。
本当に、一生懸命生きるって馬鹿みたい。
心から思った。
救われたくてやってるわけじゃない。見返りがほしいわけじゃない。
でも、自分が粉々になって残るものって何なんだろう。
何も残らなかったら、何でこんなことしてるんだろう。